SSL(スーパースリムラインスピーカ)の使い方-その2-いい音を必要なエリアに-
SSL(Super Slim Line Speaker)とは、森本浪花音響計画で開発した幅50mm、奥行き60mm、高さは550~1500のスピーカである。(現在製品化しているサイズは550、900、1200、1500)。
スピーチの明瞭さ確保を主目的とした開発した製品であるが
高音域の音質が良く、控え目な音量のBGM用スピーカとしても利用されている。
また、ウーハと組み合わせて音楽再生用に利用している現場もある。
(取扱会社:株式会社エムアンドエヌ SSLのラインナップについてはこちら をどうぞ)
幅50mmという寸法は建築とよくマッチする寸法であり、長年、浪花が主張してきたサイズと機能を実現したものである。
製品化したことで見えてきたことや、今以上に性能を発揮させるために感じたこと、考えたことをまとめた。
<スピーカの向きだけのアクティブな制御だけではなく>
■ 再生音の音質をさらに良くする方法
- すでにSSLではユニットのランダムピッチ配列で、気になる等間隔取付けによる高音域の濁り音はすでに回避しています。が、まだシリーズ(パラ接続の混在)接続がシステムの中にありこれがまだ特有のくせがとり切れていません。
- 全スピーカユニットのパラ接続法
スピーカシステムにシリーズ接続がはいって音質を損ねないために。
指向性制御をするときには、SSLスピーカシステムでは4つのスピーカユニット程度にグループを組んでパワーアンプ1chでドライブさせる。
これが次に述べる指向性制御の制御グループにも兼用できるため望ましいからである。 - 2Ω程度のスピーカ重負荷でも十分にドライブできるパワーアンプが必須
- 8Ωユニットの4個パラ接続が現状では限度
- 8Ωノミナルインピーダンスをうたった、前提としたユニット(海外製品に多い)は要注意。
なぜなら、最低インピーダンスは6Ω程度にまで低下している場合がある。
インピーダンスの周波数特性を確認する必要がある。
■ 全帯域(周波数)コンスタントQ(一定の値)の手法の実現
- 周波数が高くなればなるほど鋭い指向特性となってしまうことを改善する方法
(再生周波数の波長に対するスピーカユニット配列の長さの比が大きいと指向性が鋭くなる)システムの周波数VS指向係数(Q)の変化を少なくする。 - 低音域、中音域、高音域の指向性範囲、角度(-6dB)をほぼそろえたい。
- スピーカユニットの種別による分類とその手法
1) 同じスピーカユニットを使用した場合
a)音響フィルタをスピーカシステムの前に取り付ける
● 楔形吸音材(グラスウールなど)をラインアレースピーカシステムの前に取付ける。
両端に分厚く中央付近は薄く、中央には設置しないような取付け方。
● 音響機器でのローパスフィルタで補正調整する方法
フィルタの通過帯域で、
最両端では低音帯域のみ、中間部の端では中低音帯域、中央付近は高音域、
中央では全帯域となるようなローパスフィルタで補正する。
遮断周波数や減衰特性については別項で。2) 異種スピーカユニットの場合
ウーハ、フルレンジ、ツイータなどのユニットをスピーカ用ネットワークフィルタなどと
組み合わせてスピーカシステム長と再生周波数の指向性の鋭さの整合をとる。
この方法はスピーカシステム寸法が大きくなるばかりか適当なネットワークフィルタを構成しようとすれば本来不要な大容量のコイルやコンデンサがスピーカシステム内に入り込むのでここでの音質の変化(劣化といってもいいぐらい)が生じる。メリットは大入力耐えるシステム構成が可能なこと、広帯域(特に低音側)なシステム構成が可能なことぐらいである。スリムで収まりがよいスリムラインアレーシステムの本質、要望からは遠く離れることとなる。
■ 指向性範囲の制御
- 指向性制御がより細かく設定するために、ディレイ時間の分解能を上げたい。
サンプリング周波数を高くすることによってディレイ時間を細かくできる。
従前の48KHzサンプリングでは20.83μ秒間隔(長さでは7.08㎜間隔)、
最近では96KHzサンプリング内部処理では10.42μ秒(3.54㎜)、
192KHzでは5.2μ秒(1.77㎜)
指向性制御すべきスピーカーグループ1ユニット1単位長がせいぜい160㎜~200㎜であり、これが制御単位であることを考えればディレイ時間の分解能すなわち長さの制御できる単位をできるだけ短いに越したことはないのである。もう一つ忘れてならないのがこのディレイ時間、ディレイ長さの分解能そのままの値が制御ソフトに表れてくるのもではないのである。もっと分解能があるがごとく細かな設定ができるような値が打ち込める。しかし、実はサンプリング周波数やその内部処理クロック周波数より細かくディレイ時間を設定できないことに注意を払わなくてはならない。これはディレイ時間に限ったことではないが設定が食い違うと、間違うと深刻な事態を引き起こしかねないのがこのディレイ時間の設定である。
■ 指向性パターンの種別がいろいろできる
- Jタイプ、ラウンド(円弧様湾曲)タイプ
■ アンプの出力のピークファクタの考え方(選定)について
- アンプの出力のピークファクタの考え方
音響調整卓の定格出力と最大出力の比(差)は≒20dB程度あるが、
そのあとに接続されるパワーアンプは定格出力と最大出力がほぼ同じレベルである。差があってもたかだか0.?dB である。
ここにパワーアンプの通常使用領域レベルと最大出力=定格出力の差を
常に意識しておかねばならない不便さがある。ここで音声信号の音圧レベルでのRMSとピークレベルの成分の「比:dB」を考えると、音声信号を模したピンクノイズのピーク対RMSの比は≒5倍(14dB)。音声信号では基準の低周波揺らぎも加味すると少なくとも10倍程度(20dB)にもなる。音楽ではもっと幅が広くなることは明らかである。
しかし、音楽信号の場合はダイナミックレンジが大きすぎると小さい音が聞こえない、大きい音はひずむなどの理由から圧縮器に通すことが普通に行われている。したがって音楽信号のピーク成分として音声信号と同じピーク対RMS比程度の20dBでいいようである。
この20dB のピーク成分(ファクタ)をパワーアンプ前段で見込んでおかなくてはならない。パワー比で100倍である。ここでパワーアンプのピーク成分がRMS表示の出力ではいかほどになるかということである。
サイン波のRMSに対するピークのレベルは電圧比で1.4倍≒3dB である。このパワーアンプのピーク成分(ファクタ)の3dB を加味しなければ片手落ちである。すなわちピンクノイズでのピークファクタは差分で≒10dB、音声信号(話し声のRMS成分の変動を加味して)では≒17dB程度となる。これらから半ば常識的にパワーアンプの入力レベル調整器で10~20dB のアッテネーションを設定するのは経験も含めて意義のあることで通常の使用状態を上手に反映しているものである。
ただ、あまりの出力不足や反対に過大出力になっている機器選定になっているのであれば音声信号やピンクノイズ信号のRMSとピークの比に注意して運用操作をしなければならないことは言うまでもないことである。ちなみに10dBのピーク信号を無事通過させようとすれば10倍のパワー、ワッテージが必要で、17dBのピーク信号の通貨を考えれば50倍の出力が必要である。これを最大出力と対応させて考えれば、1000ワットのパワーアンプであれば100W~20W の音声信号やピンクノイズ信号のRMS値がやっと通過するに過ぎない。
これはいかにも不経済である感を免れない。音声信号にコンプレッサをかけRMSレベルを向上させたくなるのも道理である。こうすれば、それぞれ300W~60Wにまで音声信号レベルは上げることができるのである。
ピークファクタが6dB~10dBのピンクノイズ試験信号発生器(NTIのMR1など)が作られPAやSR現場ではもっぱらこちらが用いられていることでも明らかである。
かくて、上記のワッテージ出力で最大再生音圧レベルを算出することとなる。
(浪花克治記)