富山市民プラザ アンサンブルホール(H18.11.27)残響が長い空間における拡声用スピーカシステムの導入

本アンサンブルホールは収容人員が308名で、コンパクトで使いやすい小型のコンサートホールである。使いやすいがため、最近ではコンサートホール形式であるにもかかわらず開催できる催しには何にでも使われており、うれしい悲鳴が上がっていた。同プラザにあるアトリウムほどではないが本ホールも残響が長くコンサートホール用としての長い残響時間であり、空席時1.4秒、満席時1.2秒であった。多目的ホールとして使う残響時間としては長めである。

従来、このホールには、コンサートホールとしてはたぐいまれなる大きなスピーカシステムが舞台サイドの上部に取り付けられていたが、最近の解説付きコンサートや式典・講演・集会にまでこのスピーカシステムが使われるようになると、スピーチの長時間聴取では疲れが出てくるようになり、スピーカシステムの劣化があるにせよ、中型ホーンを使用した大型スピーカシステムをステージ側壁上部に設置したときの限界であることは否めなかった。

今回、本アンサンブルホールの音響設備の改修では、残響の長いコンサートホールでもスピーチ拡声音の明瞭度を充分に得られるようにすることが課題であった。

image1   アンサンブルホール 舞台

image2   アンサンブルホール 客席

 

<スピーチ確保のための専用スピーカシステムを用意する>

ステージフロアにスピーカシステムを用意すればよい結果が得られることは、他のホールでの実験結果からも明らかであったため、本ホールでも採用することにした。スピーカの方式は、一般的なホーン型スピーカでも対応可能だが、後部壁や天井の一部にまでカバーエリアを広げてしまうため、この不要なエリアへの拡声音の供給を取り除くこと、そして取り付け場所と意匠の制約のため超スリムなスピーカシステムを使う他ないということで、森本浪花音響計画有限会社が開発したSSLシリーズが採用された。
本アンサンブルホールに使用されたSSLシリーズは、幅が50ミリで高さが1メートル強で250Hzくらいから指向性がついてくるスピーカである。フレーム径が34ミリという小型フルレンジユニットを使用したラインアレイスピーカで、旧来からの呼び名でいえば超スリムなカラムスピーカシステムといえる。

image3  下手側スピーカ開口(改修前)

 

●スピーカシステムの指向軸可変
1.2メートルの長さに24個の小型フルレンジスピーカを組み込んでおり、取り付け位置が各席後部に対して上を向くように仰角が向くような方向になるため、音が客席面に向くように俯角をつける必要があった。   そのため24個のユニットを4分割し、それぞれのグループにパワーアンプとプロセッサを個別に用意し、ディレイ時間と入力レベルを調整することによりその対応が可能となりました。

 

<ステージ上にハネカエリスピーカシステムを用意する>

ステージ上で話しやすい環境を作るため、ハネカエリ効果が十分にありかつハウリングに対して安定度が高いスピーカシステムが求められた。

●指向軸を変えるために分割駆動 12個の小型フルレンジユニットを取り付け、ステージ上に広いサービスエリアを確保するため、下方のユニットに傾きを付け取り付けました。 その上3分割したグループを作り、個別駆動しました。

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<ステージフロントスピーカシステムを用意する>

●ステージフロントスピーカシステム

取り付け可能なスピーカシステムがなかった客席最前列の席にも十分な音量と明瞭度が得られることが必要だったが、十分な設置スペースがなく、SSLシリーズの小型タイプを使うことでその問題を解決した。1台のスピーカシステムに小型フルレンジユニットを4個使用し、両サイドのユニットは少しセットバックさせて指向エリアが広くなるように取り付けた。合計8台のスピーカシステムが設置された。ステージフロントスピーカシステムを使う際には、スピーカシステムの周りを吸音し、かつ、取り付け金具に防振材を等の処理をした。ステージ中央に置かれるマイクによるハウリングに配慮することが必要である。

富山市民プラザのアンサンブルホールに導入されたSSLシリーズは、全てホールの仕様に合わせた特注品です。

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<富山市民プラザ改修の経緯>

富山市民プラザは平成元年12月に完成し、以後活発な市民活動の拠点としてその地位を不動にしてきました。しかしながら施設の完成から15年経過しているため、老朽化による音質の劣化は避けられないばかりか、現代の使用に対する要求に応えることができなくなっていました。
そのため、平成16年音響設備を始めとして各種設備のリニューアル計画がスタートし、その一環として2階にあるアトリウムの照明と音響設備の改修がおこなわれました。
アトリウムは多目的な利用がなされるようになり、照明や音響設備が積極的に対応ができることを要求されており、特にイベントや式典でのスピーチの明瞭度確保に気を使いました。残響が豊な大きな空間でのスピーチの明瞭さを確保するため、カバーエリアの範囲が明確な指向特性を持ったシーリングスピーカの追加や、移動型スピーカの適切な位置と向きの設定に着目をしました。スピーカシステムだけでは限界があるため、長時間のスピーチや講演では残響を短くするカーテンなども利用して対応することも提案し、実験をおこない確認もしました。カーテンを利用することで響きがつきまとう感じがずいぶん緩和されました。森本浪花音響計画はこの計画にも参画し、システム全体の計画に始まり、スピーカシステムの配置計画や最終調整そしてチューニング、特性の測定確認まで協力させていただきました。
アンサンブルホールの音響設備改修は、アトリウムの改修工事が完了次第着手となり、平成17年初頭から作業が始まりました。

設計監修:㈱GA開発研究所 設計・施工:パナソニックSSマーケティング㈱ 北陸社 富山支店