CALM EXPO2004&中国訪問 レポート(森本雅記記)(H16.06.20)

2003年11月に開催されたInterBEEにあわせて、業務用機器の情報ネットワークであるチャイナオーディオ・ネット(http://www.chinaaudio.net/)が募集したツアーで中国の業務用音響機器製造会社が4社来日した。その際に中国と日本の業務用音響機器仲介をする(株)万代により日本で活動する業務用音響機器の製造会社、販売代理店との交流会が開催された。その際に活発な意見交換がおこなわれ、中国において会員を集めるので音響全般について話しをしてほしいということになった。

中国国際業務用音響、照明、楽器および技術展(CALM EXPO : China International Exhibition of Pro Audio, Light, Music & Technology)が5月30日から6月2日まで北京市内の中国国際展覧センターで開催された。

今年で13回目を迎えたCALM EXPOは、業務用の音響映像機器、照明機器、楽器の展示だけでなく技術発表会も連日企画された。会場が一つだけでは収まりきれなかったため、近くの農業博覧センターにも会場が設けられた。SARSの影響で散々であった昨年の反動で、初日だけでも3万人を越える入場者を集めた。2008年の北京オリンピックに向けて数多くのインフラ整備が進んでおり、業務用音響市場も急激に膨張しつつある。

CALMでは中国生産品と海外生産品の展示会場が区分されていたが、中国生産の機器が驚くほどに多く海外生産品より大きなスペースを占めていた。会場内は音の出し放題で各社勝手に大きな音を出しているため、会場内は騒然としていた。展示されている機器の種類は多いものの、大半は海外製品に似たものばかりで独自性のある機器が極めて少なかったというのが感想である。   日本からも松下電器産業、不二音響他の会社が展示をしていただけでなく、EVIやBOSEといった国内で見かけることができる欧米のほとんどの会社が中国における代理店を通じて出展をしていた。今回は中国国内の製造会社、協会役員との懇談が多く入っていたため海外製品の製品を見て回ることができなかったが、松下電器産業が主催をしていた技術発表会に参加する機会があった。この発表会では活発な質問があったが、日本語と中国語と言う大きな壁が立ちふさがり、技術用語がわかる通訳がいないという問題があった。これからの音響技術交流をはかる上で検討をしなくてはいけない課題であるだろう。

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今回、中国録音師協会に所属する製造会社とチャイナオーディオ・ネットがスポーンサーとなり、技術交流会において講師を務めるために北京に招待された。6月1日夜に開催された交流会には内蒙古や大連から集まった60名以上にわたる技術者に対して音響設備を設計するにあたって何に気をつけなくてはいけないかを話した。同行した高宮氏は、音楽プロデューサの立場から録音の実際手順について話をしたが、3時間の交流会では時間が足らず熱気にあふれた質疑応答をしながら散会した。

チャイナオーディオネット(http://www.chinaaudio.net)

中国の音響製品は安いが品質が悪いものだという評価のままだと、ベトナムを始めとした東南アジア諸国に価格で負けてしまう。今までのOEM生産国という立場に甘んじるのではなく、中国製品として海外製品と対等に競争できる音響機器を生産しながら海外の優れた製品を使うことができるように市場を拡大することを目指さなくてはいけない。そのためにはオペレータ、音響コンサルタントそして製造会社が知識を習得して研鑚をしていかなくてはいけない、ということでチャイナオーディオ・ネットが立ち上がった。

その中心となって動いているのが周耀平氏で30台半ばながら中国録音師協会の幹事として活動をしており、中国各地で音響講演をしている。現在6人のスタッフを抱えて情報発信に励んでいる。 昨年のInterBEE、今年フランクフルトで開かれた「ミュージックメッセ」に参加者を募りその団長としてメンバーを引率している。  私の北京滞在中様々な面でお世話になったが、中国の歴史に対する見識も深く、唐詩を吟詠する趣味も持っている。聞かせていただいた唐詩吟詠のCDは興味深いものであり、言葉がわからなくてもその韻律の美しさに感動をしてしまった。  四川省出身の周一族は代々料理人の血を引く家系ということで、家でも料理を楽しんでいるという。

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周耀平氏

チャイナオーディオ・ネットに加わっているHong Zhi Audio Co., Ltdの張志宏(Zhihong Zhang)社長のことにも触れておこう。 今回の展示会では唯一固定設備用のスピーカーシステムを展示しており、垂直方向の指向角度が非対称のホーンを持ったスピーカも展示されていた。広州市内で音響機器の製造をおこなっている。  若い頃から音響機器を手作りするのが大好きで、音響機器製造会社を設立した。プロセッサー、パワーアンプ、スピーカーシステムの製造をおこなっており、NC機を使った製造もおこなっている。小さいながらも無響室を用意している。使用者の要望による特注製作にも応じることができるという。  自分が納得した音質を持った製品しか作らないと言い切る職人の親方のような一徹さを持っているように見受けられた。      時間があれば工場を見て欲しいと言われたが、今回は日程の調整ができず勘弁願ったが、話を聞くにつれて張氏の熱意を感じ是非とも訪問する機会を作ろうと思う。

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張志宏

 

<北京の風景>

数年前まで北京にいた人が、北京市内や交通施設では大きな音量で音楽が始終流れていてうるさかったと言っていたが、今回見た限りでは空港アナウンスもなく、北京駅構内も静かで、街中には全く音楽が流れておらず静寂そのものであった。観光地も同様で静けさの中で風景を楽しむことができた。  北京市内でもオープンを間近に控えたクラブを建設している光景を多く見ることができた。多くの大使館がある一角はクラブやショットバーで夜店を歩くようなにぎやかさであった。昔はドルがないとこのような店には行けなかったようであるが、今は中国貨幣も使えるようになり誰でも行くことができるだけでなく、日本で手に入る飲み物や食べ物は全てここにあった。クラブビジネスが急成長しているせいかCALMでもディスコミキサー等の関連製品が多く展示されていた。中国ではDJは一般労働者の数倍の収入を得ることができるとのことである。

 

映画館はDVDが映画上映より早く販売され、かつ海賊版が横行していて価格が安いという理由で観客動員が減っているという実情である。海賊版には台湾の映画館で小型カメラを使って写してきてそれをコピーしているような製品もあるという。そんなDVDの販売価格は日本円で100円前後、映画の料金が700円では太刀打ちができない。   町は活気に溢れており、自動車と、自転車と、人がぶつかりそうになりながらお互いに譲ることなく我先に交差点を行き来している。中国のイメージにあった自転車の大行列という光景は見なかったが、右側通行の道路で自転車が自動車の直前を左折していくと車の助手席で思わず足を踏ん張ってしまった。

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映画館の入り口

 

東京で言えば銀座といえる王府井(ワンフーチン)は終日歩行者天国となった通りがあり、夜は多くの屋台が出て多くの人出でにぎわっていた。中国の6月は日中30度を超えるような暑さだが、湿気が少ないため日本の夏のようなけだるさは感ぜず、夜は爽快な時間を過ごすことができる。それぞれの屋台では鳥、豚、牛、羊の肉だけでなく蛙やさなぎまでが焼かれており、サソリまでが串刺しになっていた。そのそばでは生きたサソリが壷に入れられてうごめいていた。中国では飛ぶものは飛行機以外何でも食べるし、四足も机以外は食べると言う。豚は鳴き声以外全て食べてしまうとのことで、屋台を見ているとその諺がもっともだと感じられた。

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さなぎ

 

道路、公衆電話、地下鉄といったインフラ整備が進んでおり、北京空港から北京市内まで1本しかない高速道路も増設され、地下鉄も路線が増加されつつある。北京市内は建設の槌音が絶えないという活況を呈している。高速道路の料金所は極彩色で、中国門の形をしている。ETCシステムも実験中でしばらくすると実用可能となると言っていた。   中国のトイレが汚いと聞いていたが、ホテル、展示会場、観光地のトイレは全て水洗となっており、一部は有料(5角:7円)ではあったがトイレットペーパーも備え付けられており、非常に清潔な印象を受けた。万里の長城にあるトイレも有料ではあったがもちろん水洗であった。世界遺産の指定があり、中国政府の肝いりで整備が急速に図られているのだが、観光客にとっては大変ありがたいことである。

 

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高速道路の料金所

市民生活にもオーディオの普及が目覚しく、電気街には中国製の家庭用スピーカーシステムが多くおかれていた。日本製オーディオシステムは高級品、米国、欧米の製品は超高級品として売られており、カーオーディオのコーナー、AVのコーナーも設けられていた。

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北京の電気街

 

<天安門前広場の拡声設備>

今回の旅行では「天安門前広場」と「人民大会堂」の拡声設備を見ることも目的の一つであったが、関係者との連絡がうまくつかず外側だけを見るだけで終わってしまった。  天安門前広場に取り付けられたスピーカーシステムは[Beijing 797 Audio Co., Ltd]という会社が製造したもので、数多くのポールに取り付けられていたとはいえ、これで十分なのだろうかという疑問が残った。

image21天安門前広場に取り付けられたスピーカーシステム

人民大会堂に使われている拡声設備も、奥行き336メートル、幅206メートル、高さ46.5メートルという空間に対して小さすぎると思い質問をしたが、政府の基本方針演説に対して討議がなされることがなく、満場一致で決まるためこんなもので良いのだと言っていた。  人民大会堂の中には各省の代議員が集まる部屋があったが、台湾省の部屋も用意されていたのが大変印象に残った。

image2 人民大会堂

<中国の文化>

中国の公務員選抜制度「科挙」の総本部である孔子廟には、1271年に始まった元の時代からの合格者が石碑に彫られたものが残っている。

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歴代の皇帝もこれらの学生に直接講義をおこなったという。三段階に分けて合格者を選抜しており、最高の甲種で1位になった人間に対しては、皇帝と同じ黄色地に龍をあしらった衣服を着ることが許され、合格者の名前が記された大きな額を勅使が出身の村まで運び、村の門に掲げたという。

 

<万里の長城>

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米国のグランドキャニオンに行ったときも自然が作り上げたその壮大さに驚かされたが、人間が作り上げた万里の長城もその規模に目を見張った。
紀元前2世紀の秦王朝前から建設が始まり、総延長7千キロ、2千年近くにわたり侵略に備えて作り続けた人々の思い、これを護り続けた人々の思いがいかようなものであったか、想像するだけで胸がときめき、悠久の時間を感じてしまった。  すっかり観光地として整備され、ロープウェイを使って上の方まで行くこともできる。

明と清の皇帝が住んでいた故宮が故宮博物館として残されているだけでなく、孔子廟、天壇公園、明の十三陵、西太后の夏の別荘であるイワエンが保存されており観光名所は事欠かない。  西太后が頤和園(イワエン)を作ったため清の北洋艦隊用大砲弾を作る予算がなくなり、日清戦争で日本に負ける敗因となったという。

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故宮博物館

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頤和園(イワエン)

北京オリンピックが終わっても、これだけの観光資源がある限り外国人旅行者を呼び込むことができ、北京の賑わいは続くことであろう。 また数年後に訪問したときに中国がどのように変わっているか楽しみなところである。 (森本雅記 記)