東京ミッドタウン・カンファレンス・ホール棟のホール、会議室の音響設備について―特にスピーカシステムについて―実はSSL開発の事始め、である―

『 東京ミッドタウン・カンファレンス・ホール棟のホール、会議室の音響設備について』
―特にスピーカシステムについて―実はSSL開発の事始め、である―

 

●東京ミッドタウンは一昨年4月にオープンした日本屈指の総合再開発の街である。その根本の精神は「おもてなし」である。帰ってきた、和める、あったかい、などの言葉がふさわしい。新しいけどどこかホットする街、東京の中心ミッド“タウン”である。ランドでもシティでもないタウンというネーミングが象徴していると思っている。そして、そのミッドタウンイーストBIFにミッドタウンホールA、Bがある。また、さらに、ミッドタウンタワー4Fにはミッドタウン・カンファレンスがある。この中には大小9つの会議室があり、可動間仕切りによって大きさが可変できる大型の会議室も設置されている。

●さて、われわれは、このホール、カンファレンスでのサウンドシステム(を中心ではあるが、加えて、室間のデジタル音声信号や制御信号をLAN・NETでのデータとしてのやり取りまで)の技術支援業務を行った。

●今回はその中で採用されたM&Nとしての開発1号機であるスーパースリムライン(SSL)という幅50mmという超スリムなラインアレイスピーカを提案し採用された。

今回のテーマは前置きが長くなったがその開発と採用の経緯とその技術的なアプローチについてご紹介したい。

●まず、設置場所はホールA,Bのウォールに拡声用のメインスピーカとして。また、エントランスの柱にBGM,環境音用にいずれも埋め込みで設置している。

●SSLの開発の端緒になったのはとりもなおさずこの東京ミッドタウンのホールや会議室での意匠を損なわない(スリムな)スピーカの開発に端を発している。既存のスピーカではどうにも収まりが悪い。黒くて(白くても)大きな「異物」として建築設計者に映るのがこの「異端児」としてのスピーカである。必要なことはわかるがどうにも収まりがよくない。醜悪。打ち合わせのときにスピーカの大きさや色、形のことに話が転じると建築設計者の顔が曇る。これではいいデザインの建築などは望めまい、ということで、

●スリムでそれでいて十分な明瞭さと音量が提供できるスピーカの提案となったのである。スリムな分音量が小さい? では長さで稼ごう、音量を。また、音質はスピーチに特化して低音の量感は多くを望まないが低音感は確保する。音楽は二番手とし、音楽の再現には低音域の拡張用としてのウーハ(サブウーハではない)や低音特性補正用フルレンジスピーカを追加すればいい。と割り切っての開発スタートである。当初は榀ベニヤ合板の5mm厚のもので試作した。そこでのテーマはスピーチの明瞭度がいい特性のユニットの確保(20φの振動板、フレームは30数ミリ角)と不等ピッチ(当初はスピーカの向きも正面のみではなく不等角度で取り付けようとしたが小型に過ぎるためとコストの両面で不採用)でユニットを取り付ける(40数ミリでゆらぎレベルの不等ピッチ)こと、エンクロージャ寸法も正のつく矩形ではなくW:50mm×D:60mm(L:超長い⇒≒900や1200…)、のような不等寸法とし、さらに容積をある程度確保できかつ収まりのいいサイズとする、などである。試作品では90cmの長さで16個のユニットで製作。しかしこのユニット台数では許容入力/出力音圧レベル(感度も)が小さかった。それで、ユニット数を20台に増量し現在にいたっている。

●ここで試作した木製エンクロージャでは製作コストがかさみすぎた。そこでアルミの引き抜き材で同寸に仕上げている。思わぬ副産物として、木質系のほうが音質がよいという音響の常識が覆り、アルミ材で作ったほうが重くて(比重≒2.3、木は約0.7程度)共振しにくい分音質がクリア、明瞭で良好だったことである。アルミ材ではしっかりと作れる分重くなっている。試聴披露会の時にはまさかこの小型スリムスピーカらの音とは誰も思わなかった、というほど声の拡声では自然で明瞭だった。ということで施主、設計者の推薦で決定してしまった。しまった、とはなんという言い草だ、ということとも取れるが、   試作品のレベルではいかんともしがたく、製品として責任を持ったものとして世に出さなければならないことに緊張感が走ったのである。

●現在では指向性制御や指向角制御を行うためにスピーカユニットを4~6台でひとつのグループとしてまとめ、そのグループ毎に微小遅延時間を設定できるようにしたものも製作している。90cmでは20台のユニとがあるので4~5分割などを推奨している。いわゆるスピーカユニット(グループ)の位置を微妙にずらして音の波面の制御を行うものである。スピーカが向いている方向と異なるスピーカの向きのが得られるばかりかサービスエリアの広がりも制御できる。さらにスピーカの指向軸と上下方向に非対称なサービスアングルも設定できる。(指向性制御が出来るコンセプトのスピーカが最近パソコンソフト上で設定できる製品が表れている。しかし、いずれも大きくて、特に幅、我々のコンセプトであるスピーチに特化した建築意匠に優しいスピーカ、とは一線を画すものである。)

●こういう経緯で出来上がっているが実はスピーカの提案、開発から設置まで、この東京ミッドタウンのプロジェクトは工事期間が長く3年近くかかっている。その間、ほかのプロジェクトに採用されたほうが早く設置され稼動している。たとえば、逗子マリーナのリビエラ・ブライダルバンケットのメインスピーカに採用に端を発して、表参道のパーティ会場のメインスピーカ、富山市民プラザ・アンサンブルホールのメインスピーカ(改修)、教会に宴会場などに先行設置されている。いずれも拡声音の明瞭さや音質のクリアさで好評である。望外のうれしさは音楽においても好評・優秀であった。実は提案では、音源や音質をこのSSLで担い音量はほかのスピーカ、たとえば小型高性能シーリングスピーカでという設計でも、実際は音質が言いということでイベントの音楽ものをSSLでこなしてしまっている例さえある。もちろんこの場合には低音拡張用ウーハやサブウーハを使っているが。また、某大型コンサートホールでおこなったスピーチのテスト拡声でも明瞭さは損なわれず同様の結果であった。千数百名のワンフロアを90センチ長のわがSSL1台でカバーしたのには持参した私の方がびっくりした。2台スタックして1.8mとすれば完璧であった。この好ましい結果はスピーカユニットの配置方式やエンクロージャの材質などにおうところはもちろん大きい。が、いい超小型ユニットに出会ったことも幸いしている。

音楽再生用に開発された、それもスピーカ近くで聴取されることを前提にしたものを採用するべきではないことを改めて思い知らされた。遠距離音声情報伝達用は近接用(ニアフィールド用)では決して代用しきれない永遠不滅の原則は今も健在である。いい素材に出会ったと思っている。                                               (浪花克治記)

※SSLスピーカの製品案内はhttp://www.mnsv.co.jp/ でもダウンロードできます。