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某県民会館大ホールの音響設備6ヶ月点検をおこなったときの報告である。少々驚きの結果を二つ紹介する。

一つはメインスピーカの再調整での想定外の特性の変化があったこと。もう一つは改修をおこなったデジタル調整卓と既設の移動用デジタル調整卓の音質を比較したことである。

メインスピーカの音質の初期経年変化について、点検に出かける前は当然の変化として低音や高音域の周波数域の伸長と再生レベルの増大を予測していた。しかし現実の音質はどうも違うようであった。再調整の気構えで望んだ当初、音質があまり変化していないようにも、随分と変わっているようにも聞き取れた。というのも室のブーミング周波数域でのこもり音が明確ではないのである。過去の経験からして完成後1年検査ともなればブーミング周波数帯域やオクターブ低音側の周波数がどうにもならないぐらい持ち上がって聞き取れ、音のこもりでスピーチの明瞭度は殆どないに等しいぐらいに変化し1年後の再調整がクレーム対策になることが多かった。本県民会館でも改修完了時に音響担当技術者の方にお話しし、本番のないときにも音のチェックや慣らし運転という意味でも出来るだけ音を出していただけるようにお願いはしていた。この一年間の音の変化を出来るだけ明瞭に認識するための処置であり音質調整を、その都度スピーカ出力側の機器すなわちスピーカプロセッサでおこなうのではなくデジタル調整卓の出力調整機能でおこなっていただくようにした。したがってスピーカプロセッサの調整量は工事完了時におこなった調整量そのままの状態で初期経年変化の比較となる。

その音質変化の結果、工事完了時におこなった殆どのスピーカプロセッサの調整量を元の調整しないデフォルトの状態にした。この方が音の芯がしっかりし音に実在感が伴ってくる感じであった。このようにデフォルトの状態に戻すということは今までになく、このことはスピーカのメーカチューニングが慣らし運転を十分おこなった状態で、かつ、現場の設置状態を見越しておこなっていることに他ならない、のではないかという事である。もっとも、メインスピーカの配置では対称配置や等ピッチ配置となっていることからスピーカにシステムディレイを僅か設定しこの等ピッチやシンメトリーになることから逃れるような処置をおこなっていること、さらに、このホールは円弧状後壁の吸音壁の改修も同時におこなっておりスピーカの素性だけの要因ではないとも言えるのであるが。

また、本ホールの側壁は舞台からの反射音を客席にではなく後壁の吸音拡散面に到達されるような後壁に向かって開いた壁面ユニットで構成されている。その開いた壁面ユニットの段差の部分にも吸音材が充填されている。徹底した反射音制御の考え方である。これらがもたらす効果は後壁反射面の性状が本ホールの音響の素直さを決定しているものと考えられる。改修後の拡声音の効果は低音のこもり音の少なさを実感できるのもであった。この点も更新後のスピーカの音質に貢献しているものである。

参考までに、この吸音壁の改修目的は舞台に集中しがちな円弧状の外観のままではなく音響的に拡散壁をその壁内部に設けその内部と外部、外部はすなわちホール内壁面に当たる、には吸音材を配置している。外部には強度確保用の木リブを等ピッチからランダムピッチに変更し舞台側への音の集中現象を極力排除し素直な音響空間を目指したものとしている。これらについても我々は協力をおこなっている。

さて、話しを元にもどして。。   再調整時に工事完了時におこなった調整量が残ったのはサブウーハの共鳴周波数の補正ぐらいである。もちろん、メインスピーカは現代のスピーカシステムの例に洩れずラインアレイの構成である。それをプロセニアムに3セット、サイドスピーカに2セット、設置している。プロセニアムの3セットは通常のラインアレイの方式であるインライン方式である。サイドスピーカについてはカバーエリアの都合とその開口寸法の制約からインライン方式ではなくすスプレイ方式、すなわち、ここでは3台のラインアレイを構成するフルレンジ型スピーカを12~20度程度スピーカの音響中心を基準として水平方向の角度を変えて配置している。当初はこの方式はメーカでは推奨していないものと考えられたが本国サイドでの使用も確認されており本会館でも実験をおこなってそのうえで採用に踏み切った。インライン方式に比べ本スプレイ方式は一台で動作しているような素直な音が再生されることを確認している。インライン方式のようにある程度の重ねあわせによるガッツがあり、張り出し感や押し出し感のある音とは対極をなす。ホール・劇場の固定設備にはこの方式のほうが適しているような結果であった。音は繰り返すが素直であるということである。

結論めいたことをいうにはまだ早すぎると思われるが、スピーカの素性のよさとその補正量やアンプをも含めた品質管理・保障の姿勢が垣間見えるようなことを感じたのである。

今後、また一年検査が半年後にやってくる。この時点での音質の変化(は、もはやないかもしれないが)が楽しみであり、追跡をおこなっていきたいホールである。

 

第二にデジタル調整卓の再現音質について。 いったいこの差は値段をも含めてナンなのであろうか、と感じたほどであった。改修時に採用したのはヨーロッパ製のある高価なデジタル調整卓である。比較したのは市販の汎用型で過般型の気楽に使えるタイプである。でも、である。その価格倍率は優に100倍にもなろうとするものである。AD、DA部の音質の違いのみとも思えないその差は私には一見いや一聴ではわかりにくいものであった。しかし、聴きこんでもとの比較機器に戻るとその差の大きさに愕然とするのである。安価な方は詰まったような帯域の狭い、歪み感までも感じてしまうのである。いったん聴きわけてしまったならもう元へは戻れない、そんな音質の違いである。逆に言えば価格が100分の1の機器のレベルが途方もなく肉薄していることにもなる。決して侮れないものである。この点をどう評価するかは音響設備設計者にとって悩ましいことである。しかし、このテーマはアナログの時代にまた戻りそうでおかしさをこらえきれないものである。音質の評価とはいかなるものであろうか?とね。

これら6ヶ月点検の準備を会館の方々が率先しておこなっていただいたのには感激である。  運用者サイドの地道な努力に負うところが実は一番大きいのではないかと思えたりもする。これほどの愛着を持って改修後の設備に接していただいているのはあまり例がない。この少ない例として、数年前に改修をおこなった富山市民プラザのアンサンブルホールのことも思い出します。この例についてはまた次回ということで。(文責:浪花克治)